●100円の価値

駅ビルの中を歩いていた。
ちょうどJRのキップ売り場の前で、白髪の老婆に声をかけられた。
百円玉を持っていないか、ということだった。

「百円玉?」

1秒? いや、2,3秒考えた。

財布の中には、まだ百円玉はあったはずだ。
今は金に困っているわけでもない。
思わず渡しそうになった。

その瞬間、六感が黄色サインを出した。

赤色にはならなかったが、その黄色を信じた。

「いや、持ってないっすね。」

その後、歩きながら考えた。
本当に困っている人だったら?

しかし、老婆は普通とも言えるが微妙に薄汚い格好をしていた。
それに彼女の右手はポケットの中にあり、そこからは小銭の音がしていた。
音からして、確実に10枚以上はあるとみた。

時間が経ち冷静になって考えると、間違いなくホームレスだ。
別に金に困っているわけではなく、むしろ浪費するほど持っていたが、
ホームレスに恵むのには少し抵抗があった。

たった百円くらい、困っている人になら抵抗なく渡す。

しかし、ホームレスは嫌だ。
理由は書かなくてもわかると思うので書かない。

以上。ただそれだけ。



しまった。

あの後、募金すればよかった。


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