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第1話『LIFE』
澪(ミオ)「ちょっとぉ、いつまで寝てるの? 今日、大学行かないの?」
「……行くよぉ。今日二限からだからぁ。今、何時?」
「んっとね〜もう10時ちょい過ぎだよぉ。」
澪は机の上に置いてあるデジタル時計に目をやり、そう言った。
「…………」
「ええ〜〜っ!」
航は部屋中に響き渡るくらい叫び、飛び起きた。
「きゃっ!?」
突然のことで驚き思わずのけぞる澪。
「澪っ! なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
自分の寝坊を人のせいにする航。
航は元々ルーズな性格ではなかったが、澪と暮らし始めてからは、澪に任せっきりでついルーズになってしまいがちだった。
「ちゃんと起こしたよぉ! 二度寝するからいけないんだよ!」
「もぉ、航ちゃんのせいで遅刻じゃん。」
軽く頬を膨らませながら澪はそう言った。
「ゴメンゴメン。」
バツの悪いときについしてしまう日本人特有の笑いでごまかす航。
「じゃあ、帰りパフェよろしく。」
澪はにっこりと微笑みそう言った。
3流ラブストーリーにありがちなお決まりの展開だ。
「は〜い。」
航は間延びした声で答えた。
こんな感じだから二人はよく誤解されるが、特別な関係なわけではない。
『日吉〜』
列車が止まりアナウンスが停車駅名を告げた。
「じゃあわたし先行くねっ。」
扉が開くと、そう言って澪はホームの人ごみの中を駆けて行った。
澪はどちらかと言えば真面目な方なので、昔からあまり遅刻などはしなかった。
それは大学に入ってもやはり変わらないようだ。
「んっ、じゃあな。」
祐樹(ユウキ)「よぉ、航〜! また遅刻かよ?」
「なんだ祐樹、来てたのか。」
「へへっ、まあね。」
「澪がもっと早く起こしてくれればよかったんだよ。」
「何甘えたこと言ってんだよ? あんなカワイイ子と一緒に住んでるだけで十分だろっ!」
祐樹はそう言いながら、冗談まじりに航の頭を叩いた。
「いてっ。」
「だからぁ、あいつはただの幼なじみなんだよっ! 一緒に住んでるのは、大学まで一緒になっちゃったからなんだって。」
航は祐樹の首を絞め前後に振っている。
「いててて。」
祐樹はおちゃらけた奴だ。よく航をからかっている。だが根は真面目な奴なので、航とはウマが合った。
「おいっ、そこ静かにしろ。」
「…………」
「へへへへ」
「よっ航君。おやすみのところ悪いんだけど、今夜呑みに行きません?」
「あれえ…授業は?」
「終わったよ。見事に爆睡だな」
「…………」
「悪いけど、今日はバイト。」
「家庭教師か、あの高2の子?」
「ああ。」
「手ぇ出すなよぉ。」
「出さね〜よ。」
航「こんばんわ。」
萌の母「いらっしゃい、今日もよろしくお願いしますね。」
バタン
「萌ちゃん、こんばんわ。」
萌(モエ)「こんばんわ〜」
高2だがまだあどけなさを残した彼女は、いつも部屋に入ると無邪気な笑顔で迎えてくれる。
「今日は何やりたい?」
「んっとね〜。萌、数学のココがわかんない。」
「んっ、どれ?」
「ああ、これはね……」
「わかった?」
「うんっ。」
「じゃあ、ちょっと休憩しようか?」
萌が航の顔を覗き込んでいる。
「んっ? どうしたの?」
「クリームついてるよぉ。」
そう言って萌は微笑んでいる。
「!?」
「かわい〜。」
「わっ、笑うなよぉ。」
航は口の周りを舐めながらそう言った。
「もうすぐクリスマスだねっ。」
「そうだね。」
「先生はどうやって過ごすの? やっぱり彼女と?」
「彼女がいたらね。」
「えっ? 先生、彼女いないの?」
「いなくて悪かったな。」
「そっかぁ。」
「じゃ〜あ、クリスマスまでに先生に彼女ができなかったら萌が相手してあげるねっ!」
「あ、ありがと。」
「彼女いなかったらちゃんと空けといてね? 約束だよ。」
(やべぇ、今のはちょっとカワイかったぞ。)
「先生、どうしたの?」
「い、いや何でもないよ。うん、約束するよ。」
「変なのっ。」
「じゃ、じゃあそろそろ再開しようか?」
「うんっ。」
「先生、ばいば〜い!」
「バイバイ。」
枯れた街路樹には、何万個ものイルミネーションが巻き付けられている。
12月も半ばに差し掛かり、もうすっかり街はクリスマス気分だった。
もう雪でも降りそうなくらいの肌を刺す風の中、航は家路についた。
「はぁ……もうすっかり冬だな。クリスマスまであと1週間か……どうすっかなぁ。」
「ただいまぁ。」
「あっ、航ちゃん。おかえり〜。」
「お風呂、入れるよ?」
「いや、先にメシ食うよ。」
「じゃあ、チンするねっ。」
「ねぇ、航ちゃん。あさってヒマ?」
「ん〜? ヒマだよー。」
「じゃあさー、映画観に行こうよ。」
「いいよ、何の?」
「うんとね…これっ。」
澪はそう言って持っていた雑誌のあるページを見せた。
『Refrain love』
「リフレイン・ラブ?」
「うん! 私たちが生まれた頃の映画なんだけど、今度リバイバル上映するんだって。」
「ふぅん。どんな映画?」
「うんとね〜、『幼い頃から同じ環境で育った二人のラブストーリー。大人になるにつれて大きくなる想いから目をそらし続ける二人を描く。』だってさ」
「ふ〜ん。いいんじゃない。」
「何それ〜? もっと楽しみにしてよぉ。」
航がそっけない返事をすると、澪は頬をふくらませそう言った。
「……わぁ、早く見てぇ〜!」
「えへへっ、でしょぉ?」
そう言って澪はにっこりと微笑んだ。
「…………」
「あと、ドレス買いたいんだけどそれも付き合ってくれる?」
「いいけど、そんなの買っていつ着るんだよ?」
「そんなのクリスマスに決まってるでしょぉ。」
「そんなにキメて過ごす相手なんているのかよ?」
「へへへ、それはヒ・ミ・ツ。」
「あっそ。」
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