澪「玲二先輩、すみません。私、用事を思い出したので帰ります」
玲二「えっ? もうこんな時間だよ?」
澪の口から出た言葉があまりにも○○なので玲二は
澪「わかってます……だけど、とても大切な用事なんです」
玲二「ちょ、ちょっと……澪ちゃん!」
「ごめんなさい……さようなら」
そう言って澪は静かにドアを閉めた。
一般的なマンションの一室よりも広い最高級の部屋に、澪を呼びとめる玲二の言葉だけが響いていた…
運転手「あちゃ〜事故だ」
航「えっ?」
運転手「そうとうでかい事故みたいだな、もうあと5分で着く距離なんだが、ここを通れないとなるとだいぶ迂回しなきゃならん」
航「……じゃあここまででいいです!」
そう言って航は財布の中から無造作に取り出した何枚かの千円札を運転手に渡し、ドアを開けて飛び出した。
運転手「ちょっとお客さん!」
航「釣りは要りません!」
運転手「…車で5分ってことなのに…変な客だな〜…でも、まっいいか。へへ儲け儲け」
もう後ろ姿が小さくなる程早く走り去ってしまった航を見て、そうつぶやいた。
澪「横浜まで! 急いでください!」
そう言って澪はホテル前のリムジンに飛び乗った。
ドアが閉まるとリムジンはスピードを上げて走り出した。
澪「……航ちゃん」
「……ごめんね」
航ちゃん……悲しい顔しか思い出せない。
最近、航ちゃんの笑ってる顔見てない……
航ちゃんの笑ってる顔が見たいよぉ。
私、ほんとにバカだ。
「航ちゃん……ごめんねぇ」
涙が溢れ頬を伝う。
澪
「!? ……航ちゃん?」
聞こえるはずのない航の声が澪の頭の中に響いた。
涙を拭い顔を上げると、前から真夜中で誰もいない道路の真ん中を、一人の青年が走ってくる。
澪「……!? まさか」
「すみません! 止めてください!」
青年とすれ違い、リムジンは路面にタイヤの跡を残しながら数メートルほど進んでやっと停車した。
航「はぁはぁ……あと少し」
ついに、ホテルのロビーらしき光が目に写った。
「はぁはぁ……澪」
航ちゃん!!
航「!?」
航は足を止め、振り向いた。
ピンヒールを履いている澪。よたよたと走ってくる。
馴れない靴で航を追いかけ走ったので転倒してしまった。
航「澪!!」
航は澪のところまで残った力を振り絞り走った。
航「はぁはぁ」
澪「航ちゃん…ごめんねぇ」
澪は泣きながら航に抱きついた。そして、航も澪を抱きしめる。
航「澪……オレのほうこそごめん」
しばらくの間、二人は抱き合っている……
澪「……雪?」
航「えっ?」
二人は抱き合ったまま星空を見上げた。
2000年最後のクリスマスに長い年月の末やっと辿り着いた二人の愛を祝福するかのように粉雪が舞い降りてくる…
澪「わぁ、ホワイトクリスマスだね」
航「うん、すっげぇきれい」
澪「うん…幸せ」
そして二人は再び強く抱き合った……
12月の雪の夜の肌を刺すような寒さの中でも二人は少しも寒さなど感じなかった。
澪「ねぇ航ちゃん…映画、観に行こ?」
航「“リフレイン・ラブ”……だっけ? こんな時間にやってないだろ」
澪「あの映画ね、今日はオールナイト上映なんだぁ」
航「まじ?」
澪「うん、今度こそ航ちゃんと二人で観たかったから、ちゃんと調べといたもん」
航「そっか…じゃあ、行こうか?」
澪「うん!」
そして、聖夜に降り積もる粉雪の中を、二人は寄り添い歩き出した……